研究課題
基盤研究(B)
本研究は、中世後期から今世紀の英国文学において、「心身表象」の言説と概念が如何に形成され、如何に変容したかを、「心・魂」と「身体」それぞれのイメージ分析、「心身」の相関関係、特に心身二元論の系譜とその超克、そしてそれらの「文化的特性」に関する比較文化的考察などを検討の指標としつつ、具体的な作家と作品を通して検証することを目的とした。まず、シェイクスピアの身体感を軸として、キリストの「コルプス」(身体)という特殊中世キリスト教・ヨーロッパ的イメージの広がりと特性を追求し、さらに、『ハムレット』を巡る心身の関係を検証し、イギリス・ルネサンス期の心身の結びつきを分析した。また、キケロ及び古代ギリシア文学との関連を中心として、文芸の言説におけるデカルト的二元論の汎ヨーロッパ的影響を確認しつつ、パフォーマンスという概念の導入により、東洋的身体性と西洋的心性との類似を見るに至った。次に、比較表象文化論的に心身の相関性を考察し、東洋的心身相関論の系譜と西洋的心身相関論の近似を確認した。西洋的心身の概念と東洋的心身の概念のすり合わせは困難であるが、心身二元論の系譜が依拠している「文化的特性」が国際的文化混交によって変化していく現代社会において、東洋的な心身相関論は今後ますます注目を集めていくであろうとの所見を得た。また、心身二元論の系譜とその超克については、個々の具体例においてそれぞれ確認していかざるを得ないが、総括的見地から言えることは、異文化の交流によって「心身表象」の意味を増幅することができるということである。さまざまな異文化が英国に流入した中世後期から近代初期において英国演劇が興隆したひとつの理由もそこにある。それゆえ、多様な表象文化を分析するに当たって、その文化圏とは違った心性を持つ研究者は、その文化的差異ゆえに新たな知見を示し得るという最終的所見を得た。
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