研究概要 |
基本的には、象形文字ルウィ語の碑文を読みながら、ロタシズムを受けたrを含む形式を収集するという前年度の作業を継続した。またそれと同時に象形文字ルウィ語、ヒッタイト語、楔形文字ルウィ語や他のアナトリア諸語や印欧諸語のあいだにみられる対応関係に注目しながら、つぎのような対応リストの作製も手掛け始めた(ここで示すのはデータのごく一部であるが、リストには問題の象形文字ルウィ語の形式が、どの碑文の何行目に現れるかという情報も含まれている)。 象形文字ルウィ語 ヒッタイト語 楔形文字ルウィ語 その他の言語 a-a+ra/i 'makes' i-e-zi(Old Hittite) a-ti Latin ieci, Greek ιημι PES'-wa/i+ra/i 'comes' u-iz-zi a-u-i-ti Sanskit eti -a/i+ra/i(ablative ending) -az/-za -a-ti Lycian -adi/-edi -ra/i(reflexive) -az/-za -a-ti Lycian -ti/-di この作業を進めるにあたっては、研究分担署および大学院生の協力を受けた。また、対応の妥当性を確かめるために、UCLAのBrent Vine教授を夏に10日間ほど招聘し、研究のレビューを受けた。 その後、この研究において比較言語学的な分析を施す際に、楔形文字スペリングの音韻的解釈が重要になってくることが分かった。この問題を掘り下げて考察を進めた結果、ヒッタイト語の子音語幹のmi-動詞に付く3人称単数過去語尾-taに含まれるaは見かけだけであるのに対して(e.g., e-ip-ta)、楔形文字ルウィ語の3人称単数過去語尾-taと3人称複数過去語尾-ntaに含まれているaについては(e.g., auita、auinta)、実際に読まれていたということが分かった。この知見は11月に開催されたUCLA印欧学会議で口頭発表した。
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