研究概要 |
平成12年度、平成13年度の基礎作業を継続し、象形文字ルウィ語の碑文にみられるロタシズムを受けたrを含む形式の対応リストの完成をめざした。従来どおり、2人の研究分担者と楔形文字粘土板資料に関して専門的知識を有している京都大学の研修員(森若葉)と大学院生(西村周浩など)に研究協力者になってもらい、研究を進めた。象形文字ルウィ語と楔形文字ルウィ語、リュキア語、ヒッタイト語、さらに他の印欧諸語との対応を検討した結果、ロタシズムの条件としてつぎの2つの場合があることが分かった。ひとつはアクセントの落ちる長母音の後ろであり(象形文字ルウィ語a-a+ra/i"do, make"、楔形文字ルウィ語a-ti、リュキア語adi, edi<*-di<*iae-ti<*ieh_1-ti)、もうひとつはアクセントを持たない短母音のあいだである(象形文字ルウィ語tu-pi-ti, tu-pi-ri+i"strike"、楔形文字ルウィ語du-u-pi-ti、リュキア語tubidi<*-di<´-ie-ti)。この2つの条件は、一見したところ関連性がないように思われるが、アクセントのある長母音を2つのモーラ連続の最初にアクセントがあると解釈するならば、「アクセントのないモーラの後で子音は弱化する(アナトリア祖語*-t->*-d->象形文字ルウィ語-r-)」というように、ひとつの条件として一般化することができる。この知見は、昨年12月に開催された第9回西アジア言語研究会において発表した。なお、昨年9月にトルコで開催された第5回国際ヒッタイト学会議のおりにも、各国の研究者に中間報告のかたちで本プロジェクトの成果を伝えた。
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