ウクライナは、歴史上、様々な国家に分割統治されてきた国であり、国民をまとめあげる共通の民族的アイデンティティーを欠いている。このためウクライナ政府は、市場経済移行、民族創出、脱ユーラシア入欧など、同国にとっては実現困難なスローガンを次々に打ち出さざるを得ず、同国の政治は、きわめてイデオロギッシュなものとなる。その反面、旧国有資産の私有化、共産党体制からマシーン政治(カシキスモ)への移行という条件下で、ウクライナ政治におけるクランや地縁集団は異常発達した。こうして、ウクライナは、他のCIS諸国では例を見ないような、公式の言説・憲法体制と政治実態とが極端に乖離する政治体制を持つことになったのである。 この二面性は、次のような諸局面に現れている。<政党制、議会>権力を握るクラン政党と、議会選挙では相対的に強いが権力からは疎外されている左右両極の世界観政党。く地方制度>公式には単一国家、州知事と郡行政府長官の任命制、実態においては地方ボス政治・カシキスモ。く外交>公式路線としての脱ユーラシア・入欧と、実態としてのエネルギー・私有化(資本導入)におけるロシア依存・欧州側のウクライナへの嫌悪。なお、本来ならば、公式面での正当化機能と実態面でのクラン間のバランス維持という二重の機能を果たすべき大統領府であるが、2000年から2001年にかけて浮上した「カセット危機」(依頼殺人疑惑)に示されるように、もはやクラン政治の虜になってしまった感がある。
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