研究課題
1980年代以降、ゲーム理論の発展を前提として、制度と組織の経済学的分析が急速に進展した。またその中で、経済活動をコーディネートする様式に多様性があり、さまざまな様式間の比較分析が重要な研究課題であるという認識が、経済学者の間で広く共有されるようになった。このような新しい見方は、経済史研究に対しても、従来受け容れられてきた見解の再検討を迫っている。経済史研究の分野では、伝統的に「産業革命」が経済史上の最も大きな画期の一つとされ、その本質は工場制の成立にあると考えられてきた。しかし、従来の研究では工場制の効率性が先験的に前提とされ、その結果、効率性自体の検証、効率性ないし非効率性をもたらしたメカニズムの分析、工場制と他の生産組織との比較分析、工場制相互の比較分析などの、今日から見れば重要な論点が必ずしも検証されてはこなかった。工場制は近代的な経済発展の前提とはされても、自覚的に分析対象とされることは多くはなかったと考えられるのである。本研究は、工場制の再検討が経済史学における課題としての重要性を持っているという認識に立ち、方法的には近年における制度と組織の経済分析の研究成果を参照して、経済史上の工場制の比較分析を行うことを目的としている。本研究では、日本の石油精製業、絹織物業、玩具工業における工場制と代替的生産組織の比較を歴史的視点から行ったほか、職業紹介制度、産業報国会など工場制に関連するいくつかの組織・制度をとりあげた。研究成果の一部は2002年5月には社会経済史学会大会でパネルセッション(「生産組織の経済史」)で報告された。
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