研究課題
我々が普通知っている素粒子の質量、崩壊幅といった性質は自由空間(温度T=0、密度ρ=0)で決まっているものであり、有限密度、有限温度の核物質中に置かれた素粒子の性質は自由空間とは異なったものになっていると考えるのが自然である。本研究では核内で崩壊するφ・ω・ρ中間子などの不変質量分布や崩壊比を測定しchiral symmetry restorationで記述できるような核物質効果が存在するか否かを実験的に検証することを目的としている。素粒子に質量を与える機構「カイラル対称性の自発的破れおよびその回復」を核物質中での素粒子の振舞を通じて研究するという、実験的にまったく新しい分野を開くことが狙いである。2002年3月末日に最後のビームタイムを終え、全体で6年間、計3200時間に及ぶデータ収集を終了した。2001年5月に98年までのデータから得られた電子陽電子スペクトラムをPhysical Review Letterに公表したが、それを数十倍上回る統計量を得た。解析も順調に進展し、最も時間のかかる飛跡解析を全データについて終了した。2001年に公表した電子対質量スペクトラムにはρ・ωメソンの核内マスシフトに起因する不変質量分布の変化が見出されており、国際的にも注目を浴びていた。今年度は2箇所の国際会議で統計が大幅に向上したデータの予備的結果を報告した。このデータはρのスペクトラム関数が核内で変化していることの実験的証拠であると考えている。全データの解析を終了するにはあと半年ほどの解析期間が必要である。最終的にはφの質量スペクトラム変化とρ/ωの質量変化に対する分散関係を与えることができると考えている。
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