研究概要 |
超高エネルギー宇宙線を観測する方法として、超高エネルギー宇宙線が大気甲で作る空気シャワー中の電子が発する蛍光を、遠く離れた場所に設置した望遠鏡で観測する方法が実施されている。また観測有効面積をより大きくするために、国際宇宙ステーションに望遠鏡を設置し観測する計画が進められている。このような観測で宇宙線のエネルギーを決定するには、大気中での電子の発光効率を知る必要がある。本研究は大気を模したチェンバー内で、電子の発光効率の気圧、湿度、温度依存性を測定することを目的とする。 実験は、放射性同位元素^<90>Sr→^<90>Y→^<90>Zrのβ崩壊を利用して行っている。測定チェンバー内をコリメートされた電子を5cm走らせ、電子数を光電子増倍管(PMT)(H7416)で計数すると同時にゲートを開き、この間に放出される光子をチェンバーの側壁にとりつけた、量子効率の測定されたPMT(H7195PX)3本で計測した。昨年度は、N_2^+およびN_2の主たる発光波長である337nm,357nm,391nmを中心波長とする幅10nmの干渉フィルターをとりつけた場合につき測定を行ったが、今年度は更に中心波長315nm,381nm,400nmの干渉フィルターを加え、6波長領域で測定を実施した。主たる結果を列挙する。 (1)発光光子数はいずれの波長領域でも1960年代に測定されたBunnerの結果より約17%大きい。この差はBunnerの結果は50keVと低いエネルギーの電子がチェンバー内で全エネルギーを損失した場合についての測定であるのに対し、今回は5cmの距離を電子が通過する際失うエネルギーに対する値であるからであろう。宇宙線実験ではこのような単位長さあたりのエネルギー損失に対する発光効率が必要である。 (2)300nm〜409nmでの総発光光子数は1気圧で1電子あたり3.75/mで、Bunnerの結果より約17%大きい。これまでの宇宙線実験ではBunnerの結果を用いて宇宙線エネルギーが推定されていたので、エネルギーを大きく見積もってきたと考えられる。 この結果は最高エネルギー宇宙線のエネルギー推定に問題を提起し、世界的に注目されている。重要な結果なので確認のための測定を継続中である。
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