研究課題
基盤研究(B)
超伝導高周波空洞は高い加速電場での連続運転が可能であり、その強さは通常の常伝導空洞の数倍に匹敵する。この優れた特性は高い蓄積電流を目指す電子(陽電子)蓄積リングでは極めて有効であるが、ビームとの相互作用が強いため、安定に動作させるには技術的な完成を要する部分が多かった。KEKE加速器はB中間子物理実験のための電子陽電子衝突型加速器であり、10^<34>cm^<-2>S^<-1>という極めて高いルミノシティーを実現させるため、その設計蓄積電流は電子が1.1A、陽電子は2.6Aと非常に高い。その電子用リング(HER)には、フェライトを用いて有害高調波を吸収させる方式の超伝導加速空洞が開発され設置されている。本研究課題はその超伝導空洞の運転特性を調査するとともに大電流加速器への応用という超伝導空洞にとって新しい応用分野に必要な技術を確立することであり、以下はその主なる成果である。1)本研究課題実施期間にKEKB加速器は徐々にその改善が進み、ルミノシィティーが10^<34>cm^<-2>S^<-1>を突破するとともにHERの蓄積電流はついに設計値である1.1Aに達した。超伝導空洞は、常伝導空洞の4倍以上に相当する8MV/mでの加速電場が可能であり、アンペア級の電流下においても優れた性能が保持できることを示した。2)大電流下では加速ビームとの結合が強く、このため僅かなビーム変動も超伝導空洞のトリップを引き起こす。このため全トリップ現象を丹念に解析し分類した結果、主因はビーム変動であり空洞自身が原因で生ずるトリップは月に1、2回と極めて安定であることが判った。3)入力結合器の研究では、内導体と外導体間にDC電圧を与えた場合の放電現象に着目し、実験と計算との比較からマルチパクティング放電は外導体側で発生することが判明した。また実際の運転では350kWを超える高周波電力を扱えることが示された。4)種々の蓄積電流条件下でのフェライト高調波減衰器の吸収電力を比較した結果、その負荷は広域高調波が主因であり超伝導空洞のHOMは十分に減衰していること、またそれが原因で発生するビーム不安定性は見られていないことが判った。さらに、放射光加速器などで多く使われる500MHz空洞の形状についても検討し、大電流用超伝導空洞の実用に向けての基礎を明確にすることができた。
すべて その他
すべて 文献書誌 (12件)