化合物半導体酸化亜鉛(ZnO)は、II-VI族半導体であるが、一価のイオンであるLiでZnを一部置換すると強誘電性を示すことが発見された。本研究では、この新規な電子強誘電性の起源を誘電測定やX線回折により調べた。従来、強誘電性の発現はイオンや分子の変位や整列化により引き起こされると理解されてきた。ZnOでは、これまでの解釈とは異なり、電子系が主因で強誘電性相転移が起こりうる事を示したものである。ZnO、LiドーブZnO単結晶の構造解析を室温、極低温(19K)で行い、LiドープによりZn3d電子が移動していることを明らかにした。構造解析法と、MEM電子分布解析法を応用すると、Liドープによって亜鉛の3d電子が核の部分から欠損し、結合領域に移行している様子が明瞭に観測された。また、この挙動は、DV-Xα法による計算と良く一致した。Shamらによる電子強誘電性の理論との類推から、Znに局在したdホールと結合領域で遍歴する電子、あるいはp電子との相互作用が、強誘電性の発現に関連していると推測した。Liドープによる強誘電性の発現には従来の理解による構造変化ではなく、電子系のd-p混成の変化が重要な役割をしていることを初めて明らかにし、電子性強誘電体という新しい概念を提出した。酸化亜鉛研究の意義は、 (1)電子系が関与した新タイプの強誘電体で、「電子性強誘電体」の新領域を開く。 (2)金属的な透明伝導体、半導体、強誘電体という状態がドーピング種を選ぶことにより、同一母材で実現出来き、21世紀の光半導体などへの応用が考えられる。
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