半導体デバイス中には膨大な数のヘテロ接合界面がある。このような界面においては成長膜間で応力が生じている。そして、界面近傍の結晶構成原子はバルクに比べて微小な変位を起こしていると考えられる。この微小な結晶の歪みは、キャリアの移動度変化などを引き起こし、デバイス特性に影響を与え得る。こういった意味で、ヘテロ接合界面構造の応力評価法の確立が急がれている。 また、上記界面よりさらに基本的な表面についても、表面近傍の応力は表面再構成や薄膜成長に影響を与えると考えられている。しかし、特に半導体再構成表面における応力測定の研究はそれほど多くはない。これまで、高精度な実験的な評価手法としては、光学的なウエハ湾曲測定や電子顕微鏡を用いた解析などが数例報告されているに過ぎない。昨年度は、シリコン清浄表面であるSi(111)-(7×7)表面およびAl、Ag吸着によるSi(111)-(√<3>×√<3>)表面について、その格子緩和を極端に非対称なX線回折法により定量的に評価した。その結果、上記いずれの再構成表面においても表面近傍の(111)面間隔の圧縮が認められた。また、格子緩和は表面以下10-30 nmまでも及ぶことをはじめて明らかにした。 本年度は、研究をさらに進め、金属と半導体の表面での反応過程について研究した。金属とシリコンの化合物であるシリサイドは電極のオーミックコンタクト等に用いられ重要である。しかし、シリサイドは、絶縁膜中へのシリサイド形成による電流リークといった問題も引き起こす。このような問題の解決のために、最近では、シリコン表面の水素終端によるシリサイド反応の抑制について研究されている。このとき、蒸着されたニッケル原子はシリコン結晶中に潜り込み、表面近傍において"ニッケル拡散層"を形成することも報告されている。本研究ではニッケル拡散層がシリコン基板にもたらす影響を調べた。その結果、ニッケル蒸着膜厚に対する回折強度曲線形状変化および積分強度の波長依存性から、ニッケル蒸着膜厚に対して表面近傍に圧縮歪が次第に蓄積されていくことが明らかとなった。
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