多重散乱された光の干渉による光記録効果は、光を強く散乱する媒質に光反応材料を混ぜ込んだ試料において観測されるもので、試料に単色光を照射した後に蛍光の励起スペクトルを測定すると、照射光の波長位置に凹みが観測されるという、見かけは永続的ホールバーニングと似た効果である。だがその本質は、一種の空間的ホールバーニングで、不規則な媒質に入射した光が多重散乱され、その結果媒質中にできるスペックル的なランダムな干渉パターンが、光反応によって記録されることによって生じる。このホールの形状は、光強度の相関関数〈I(ω)I(ω+Δω)〉と等価であるが、これは、試料内のある場所までの光の到達時間の分布関数をF(t)との間に|∫^∞_0F(t)exp(iΔωt)dt|^2+〈I〉^2という関係がある。試料内での光の拡散が平均自由行程のみで決まっているとすると、平均自由行程が短くなると、試料内での散乱光の光路はそれに比例して相似形で縮小される。光はその光路を光速で走るため、ここでの光の強度変化の時間スケールも平均自由行程に比例して短くなる。つまり、F(t)は平均自由行程lの変化によってF(tc/l)のようにスケールされる。これから、散乱強度が強くなって平均自由行程が短くなった場合、ホール幅は広くなると予想される。散乱体として酸化チタン微粒子を用い、酸化チタン微粒子の濃度を変えることによって、光の平均自由行程を広い範囲で変えた試料を作製し、ホール幅などの測定を行なった結果、この予想とは逆に、散乱の強い試料ほどホール幅は狭くなった。これは、光が弱局在状態となり、光の振る舞いが平均自由行程のみでは記述できなくなっていることを意味していると思われる。
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