本研究では研究対象を次の2つに分類した。 1.軌道自由度が他の自由度と強く結びついた系・3d遷移金属化合物. 2.軌道自由度が、それらの間の相互作用によって秩序化する系・4f希土類金属化合物. 第1の系では、層状Mn酸化物ペロフスカイトLa_<2-2x>Sr_<1+2x>Mn_2O_7に関して集中的に研究を行った。高ホール濃度領域(0.5. x. 0.6)でのFZ法による単結晶育成に成功し、基礎物性測定から、ホール濃度増加とともに急激に反強磁性金属状態が安定化することを見いだした。中性子回折実験から、A-type反強磁性(金属)相とCE-type反強磁性電荷秩序(絶縁)相が電子的相分離を起こし空間的に競合的に共存していること、またその競合状態が温度やホール濃度によって著しく変化することを発見した。また、La_<2-2x>Sr_<1+2x>Mn_2O_7の軌道状態を明らかにし、軌道状態の測定手法を開発するために、同一のロッドから得た単結晶により、共鳴X線散乱・偏極中性子回折・磁気コンプトンプロファイル法・スピン波分散とモデル計算の比較などの複数の実験手段を用いて相補的な研究を進め、x=0.3-0.5の範囲における軌道状態と磁性や伝導への影響を明らかにした。 第2の系では、まず、共鳴X線散乱によりDyB_2C_2の反強四極子秩序の過程と構造に関する詳細を明らかにした。これは、4f電子系による四極子秩序の共鳴X線散乱の最初の観測例となった。また、HoB_2C_2についても、T_Q=5.0K以下で反強四極子・反強磁性転移が起きていることを確認し、さらに、中性子X線散乱により、T_Q以上の比較的高い温度まで、低温相とは異なる極めて特異な格子非整合な周期を持つ短距離磁気相関が残存していることを明らかにした。この磁気散乱は、格子非整合位置の8つ衛星反射とそれらを頂点とする直方体の内部を埋めるような散乱から成り立っていることが分かった。これらRB_2C_2系に続き、反強四極子秩序系の典型物質とされるCeB_6においても、共鳴X線散乱により反強四極子秩序の過程と構造に関する詳細を明らかにした。
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