研究概要 |
この研究課題は、重い電子系物質で顕著にみられる、圧力によって誘起される種々の磁気的量子現象を中性子散乱の手法で研究しようとするものである。そのために、2002年度までに、希釈冷凍機組み込み用小型セルを開発し、2トンの応力を付加できる非クランプ型の一軸応力、静水圧装置を完成した。内径3mmの圧力セルでの到達圧力は約3GPaである。1軸応力装置を用いた実験ではURu2Si2の圧力による反強磁性誘起には強い異方性があること、及び一軸応力の変化に対して誘起モーメントに履歴現象を伴うことが明らかになった。これは、非Kramers基底二重項を持つこの物質の、反強磁性と軌道秩序の共存に関する重要な情報である。また、Ce(Ru,Rh)2Si2のSi→Ge置換した系でSDWの静水圧応答を調べた結果、準粒子型秩序から局在電子型秩序へのクロスニオーバーと考えられる顕著な磁気モーメントと転移温度の変化を初めて観測することが出来た。2002年度は、荷重制御装置を附加するなど、装置の改善を進めながら、前年度に引き続き、Ce(Ru,Rh)2Si2のSi→Ge置換系の波数ベクトルの圧力効果など詳しい実験を重ねた結果、外部圧力と化学圧力の組み合わせにより、よい準粒子バンド磁性を示す領域と、局在スピン磁性を示す領域が明瞭に分離されることを確認した。重い電子系で、このような磁性の遷移が確認されたのは初めてであり、我々が従来持っていた量子臨界領域での磁気秩序の性質に関する仮説(良い準粒子バンドの中に発生する秩序がいわゆる徴少モーメント秩序の起源であり、また量子臨界点付近で残存する局在生が非フェルミ液体現象を決定する)の一部を証明できた。
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