研究概要 |
ハルデン系の研究は低次元特有の量子揺らぎがマクロに観測されることから理論・実験の両面から研究が行われている。特に非磁性の基底状態を持つハルデン系は、一次元鎖に不純物が導入されることによって磁性が誘起し、その磁性と量子揺らぎが結合して新しい磁気状態が形成される。 我々は不純物としてキャリヤ(ホール)に注目し、ドーピング効果と磁気励起の観測を試みた。物質は中性子実験を中心とした詳細な物性を観測するため、大型の単結晶が得ることができるNd_2BaNiO_5を選択した。この物質は低温で反強磁性秩序を生じるにもかかわらず転移点T_Nより高温側では純粋なハルデン状態を示し、また、T_Nより低温側ではNdイオンがハルデン鎖に対して約50Tの実効的な交代磁場を与える描像で理解されている。 系統的にホールドーピングを行った(Nd,Ca)_2BaNiO_5における中性子実験の結果、T_N以上の温度領域において動的な非整合構造を観測し、この非整合構造がホールドーピングに伴って生じることを明らかにした。また、この非整合構造はホール濃度の増加に伴ってブロードニングを起し、ハルデン状態が不純物の導入によって急速に壊されることから動的な非整合構造はハルデン状態のスピン揺らぎに付随した状態であることが判明した。また、非整合構造のピーク間の距離δはホール濃度に比例した関係を持たず、銅酸化物超伝導体で観測されたホール濃度とδの関係に類似している。さらに興味深いことはT_N以下で新しい磁気励起を観測したことである。理論的に予想されているエネルギーよりも高いもののホールドーピングに伴って分散の小さい磁気励起が観測された。しかしながら非整合構造及び新しい磁気励起のいずれもNdイオン自体の物性が強く観測されているため、これ以上の詳細な情報を得られなかった。そこで、現在エネルギー分解能の優れているESR実験を行っている。また、Ndイオンの影響を自由にコントロールできる(Nd,Y,Ca)_2BaNiO_5の単結晶育成に成功したため、今後も中性子実験を行う予定である。
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