研究概要 |
本研究は、酸化物超伝導体のグレインの集合が、π型およびo型弱接合のためにフラストレートした相互作用系として秩序化しているときの、新しい磁気的・電気的特性を見出すことを目的としている。このためには、グレインサイズが極微小で、かつグレイン内のピニング効果等による磁気特性が無視できるような超伝導セラミクス試料を準備することが必要である。そこで、研究初年度にあたる本年度は、上記要件を満たす最良の試料系と考えられている低温焼結によるYBa_2Cu_4O_8セラミクスの合成手法を確立することに集中的に取り組んだ。 酸素欠損をもたない80K級の超伝導体であるYBa_2Cu_4O_8(124相)は、通常は高圧酸素雰囲気下で合成されるが、原料混合物の反応性が非常に高くなるような工夫をすれば、常圧下の比較的低温で合成することも可能である。本研究では、湿式法の一つであるサイトレイトパイロリシス法を用いて、組成元素がミクロスケールで混合した反応活性な前駆物質をつくり、これを980℃付近で焼成することで、純粋な単相でありかつグレインの成長が十分抑制されたYBa_2Cu_4O_8セラミクスを得ることを試みた。反応や焼成の条件を様々に変えて試験合成した試料に対してX線回折による評価を行った結果、以下のことが明らかになった。まず、サイトレイトパイロリシス法の反応が適切に達成されても、酸素を導入した炉内の坩堝中で焼成した場合は、様々な挟雑反応が起きて123相およびCuO,BaCuO_2,YCu_2O_5等の不純物相が生じ得る。一方、石英カラム中に前駆物質を入れ、これに純酸素を通過させながら仮焼する方式をとると、多少の幅を持たせた焼結条件によっても、ほとんど完全な124相が生成する。発案された後者の方法によって、サイトレイトパイロリシス法と低温焼結法を組み合わせて、再現性よく高純度の124相セラミクス試料を得ることができるようになった。
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