研究概要 |
本研究は、グレイン間のπ,o型弱接合の混在によるフラストレーション効果が期待されるセラミクス超伝導体について、新奇な磁気的・電気的特性を見出すことを目指し着手された。この実験的な研究にあたっては、微小グレインが弱く均質的につながった焼結体試料を準備することが必要である。昨年度の研究により、湿式法の一つであるサイトレイト・パイロリシス法で得た活性前駆体を低温焼成することで合成したYBa_2Cu_4O_8セラミクスが目的に叶う試料系になること判明した。そこで本年度は、この合成の最適条件を追求し、最終的にμSR測定に供し得る磁性不純物相を含まない高品位試料を得ることを試みた。 YBa_2Cu_4O_8は、通常は高圧酸素中で合成されるが、800℃以下では常圧酸素中の平衡相と考えられる。しかし、低温になるほど反応に長時間を要するので、反応温度と時間の最適条件を実験的に見出すことが重要になる。先ず、780℃の焼成中、反応の各時間段階ごとにX線分析を行ったところ、初期10h程度でBaCO_3,Y_2Cu_2O_5,CuOの各相の生成が認められた。このうちBaCO_3とY_2Cu_2O_5は過渡的な生成相であり焼成開始20h以降消失するのに対し、CuO量は極めてゆっくり分解し、十分な反応達成のためには60h以上を要することが分かった。また以上より、反応達成の評価には、20h以上の焼成の後のCuO量に着目すればいいことが確認された。焼成温度を変え試験を行ったところ、残存CuO量が最小になるのは780〜785℃の狭い温度条件に限られることが明らかになった。 以上の知見に基づき、高品質のYBa_2Cu_4O_8セラミクスが合成された。磁気測定の結果、序化の臨界温度は20Kであり、その近傍で非線型磁化率の特異点的な温度変化が見出された。μSRスペクトルは40K以下に緩和率の弱い異常を示したが、この起源は今後の検討課題とされた。
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