研究概要 |
本研究は、グレイン間のπ,o型弱接合の混在によるフラストレーション効果が期待されるセラミクス超伝導体について、新しい相転移現象を見出すことを目指して実施された。その実験研究にあたっては、比較的均一な微小サイズのグレインが弱くつながった焼結体試料を合成し、かつその接合エネルギーを系統的に変えた試料系を準備する必要がある。そこで、研究の前半では、サイトレイト・パイロリシス法を使った低温焼結によるYBa_2Cu_4O_8セラミクスの合成条件を調べた。その結果、酸素中780℃の仮焼を70時間以上行うことで、不純物相のほとんどないYBa_2Cu_4O_8が生成すること、さらにその生成物を660-785℃の温度範囲で焼結すると、純度を保ちつつグレイン接合強度を変えたセラミクス試料が得られることが明らかになった。 2つの試料についてdc磁化測定を実施した結果、グレイン間の秩序化温度がそれぞれ20Kおよび49Kであることが確認された。これらの試料につき、非線型磁化率の観測・分析を行ったところ、グレイン間秩序化温度近傍における磁化の高調波成分の起源には、異なる2種類の寄与があることが示唆された。より低温側に現れる符号変化を伴う変化の形は個々の試料に依存する。一方、高温側から秩序化温度に向かって現れる鋭い異常には普遍性が認められる。さらに、高調波の級数から分析された非線型磁化率の振る舞いは、非常に鋭い負の発散型の特異点であることを示している。これらにより、非線型磁化率の負の発散が、d波超伝導セラミクスのグレイン間秩序化の本質的な臨界現象であることが解明された。
|