本研究は、隣接グレイン間にπ型とo型の両種の弱接合が形成され、相互作用のネットワークにフラストレーションが生じるセラミクス超伝導体について、グレイン間の超伝導波動関数の位相相関による相転移と秩序構造を実験的に探求する目的で実施された。このためには、結晶の構造欠陥が少ない高温超伝導化合物について、微小のグレインが弱くつながった特殊な焼結体を試料とすることが要求される。そこでまず、サイトレイト・パイロリシス法で得た前駆体を低温焼成してYBa_2Cu_4O_8セラミクスを合成する手法が研究され、再現性を向上させる改良が行なわれた。この新しい合成技術を用いて、775℃の温度での焼結時間を加減することで、YBa_2Cu_4O_8の純度を保ちつつ接合の強度だけを系統的に変化させた試料系が得られた。 焼結時間を4段階に変えた試料系について、交流法による線型・非線型磁気応答を調べたところ、いずれの試料についても、グレイン間秩序化の効果として、YBa_2Cu_4O_8結晶のT_c(【approximately equal】80K)よりも十分低温側で応答波形の顕著な非線型効果が見られた。これらの3倍高調波磁化の温度変化は、比較的短時間焼結の試料では、グレイン間秩序化温度での発散的なピークと、その低温側で超伝導ドメイン形成に由来すると思われる異常を示す。焼結時間を長くすると、ドメインによる効果が低減し、高温側のピークが先鋭化して、低温側の異常は相対的に消失する。200h焼結の試料について、高次高調波磁化の級数で求めた精確な非線型磁化率X_2は、磁場振幅条件によらず、特定の臨界点をもつ一定の関数形を示し、高温側から臨界点に向かって、指数が約-2.7の冪乗型の負発散を形成する。この発散現象は、有限サイズ効果から離れた、d波超伝導セラミクスのグレイン間秩序化の本来的な臨界現象であることが解明された。
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