核酸の構成単位であるヌクレオチドの結晶においては、水蒸気圧に依存した結晶水数の変化がトリガーとなり、水素結合網の再編を伴った一次相転移が誘起される。その機構解明をめざし、平成13年度においては、 1.本研究費により導入した2次元検出器を用い、Na_2IMPの9水和物と7.5水和物の中間状態のX線結晶構造解析を行った。中間状態は9水和物構造と7.5水和物構造の重ね合わせとして記述できる可能性が強いことが示唆された。また、7.5水和物結晶の低温状態(-50℃)において、塩基の積層方向の周期が2倍の超格子に対応するとみられる反射の出現が観測された。 2.Na_2AMP結晶について粉末X線回折法により、水蒸気圧に依存した相転移の解析を行った。室温で構造A、構造B、構造C、構造D、構造D'の5種の構造間の相転移が観測された。このうち構造A、構造Dについて単結晶を得て結晶構造解析を行った。構造Aは三斜晶系、構造Dは単斜晶系で、いずれも7水和物であり、基本構造は共通していることが明らかになった。 3.グアノシンは2水和物と無水物問で相転移を起こすが、ラマンスペクトルにおいて20cm^<-1>付近に相転移にともない波数シフトを示す特徴的なフォノンが観測される。2水和物結晶について分子動力学計算を行い、結晶水の運動性およびフォノンの性格についての解析を行った。結晶水は分子層間と分子層内に存在する水に分類されるが、後者に著しい運動性が認められた。また、前述のフォノンは、結晶内においてab面にほぼ平行に積層している塩基の並進的振動に対応する可能が示唆された。今後より詳細な検討を行うことを予定している。
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