我々は、最近、のろまな大きな分子とすばやい小さな分子を混ぜた動的に非対称な混合系において、これまで知られている相分離様式では説明できないまったく新しい相分離様式(粘弾性相分離)を発見した。本研究の目的は、この粘弾性相分離の物理的起源の解明、その普遍性の範囲の明確化、構造形成過程でのドメイン成長則の解明にある。 本年度は、より定量的に高分子溶液系における粘弾性相分離の全容を明らかにすべく、高分子の重合度、クエンチ深さなどの因子がその粘弾性相分離現象にどのような影響を与えるかに注目し詳細な実験的研究を行った。その結果、臨界組成付近の高分子溶液系において、過渡的なゲル状態が出現するがその出現温度Ttは、分子量に依存し、臨界温度と過渡的ゲルの出現温度の差は、分子量が高くなるにつれ重合度の-1/2乗に比例して減少することが分かった。また、T_t以下でのダイナミクス、モルフォロジーの測定により、上記の通常の相分離領域、粘弾性相分離領域に加え、弾性ゲル状となった高分子リッチ相を破壊するようなパターンが現れる第3の領域、ゲル相分離領域、があることを見出し、通常の粘弾性相分離からゲルの破壊パターンを伴うゲル相分離へ移行する遷移温度を及T_<gel>と名づけた。このT_<gel>の測定を各分子量に対しおこなったところ、Θ-T_<gel>∝N^<-1>であることが明らかとなった。 また、粘弾性相分離現象の温度依存性と濃度依存性に注目し、クエンチ深さと、初期濃度をパラメータとして動的非対称の効果を制御し、相分離パターンへの影響を調べた。実験では、PSの分子量を7.06×10^5を用いた。2.91wt%PSより希薄な領域では、T_tはPSの濃度とともに上昇し、一方、2.91wt%PSより濃厚な領域では、TtはPSの濃度とともに下降する。また、T_<gel>は濃度とともに上昇していくことが見出された。
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