本研究により、以下のことが明らかになった。 ・大学500m掘削コア(富島地域)及び地質調査所掘削コア(平林地域)において、断層近傍に顕著なFTの短縮が見出された。これは、領家帯かこう岩の初期冷却後現在までの間に、ジルコンFTのアニーリング領域までの再加熱が断層沿いに起こったことを示唆する。加えて、防災科研掘削コア(平林地域)の3つの断層近傍においても、ジルコン中に同様の短縮トラックが見出された。従って、加熱帯は断層に沿って広く分布することが推定される。 ・ジルコン試料の年代測定の結果、大学500m掘削コア(富島地域)では約2Ma、地質調査所掘削コア(平林地域)では約40Maの再加熱(厳密には、その後の冷却)が記録されていることが分かった。また、加熱帯の幅を前者で約3m、後者では約20mと絞り込むことができた。岩石の変形/変質データも参照すると、この再加熱は熱水活動によることが強く示唆される。 ・室内での水熱アニーリング実験の結果、ジルコンFT系は熱水条件下でもドライ1気圧と同じAnnealing kineticsを持つことが明らかになった。また、そのトラック形状は、断層帯近傍の短縮トラックも含めて、ドライ1気圧でのアニーリングによるものと差異がない。 ・茂住断層においても、広範囲にジルコンFT系のアニーリングが見出された。従って、野島断層で見つかった加熱帯は、様々な地震断層に広く見られる可能性がある。 ・四国四万十付加帯の興津メランジェ直上の断層帯において、断層から上盤側に少なくとも3kmに及ぶ範囲で、FT長の短縮や年代値の若返りが認められた。トラック長分布から、試料への加熱が比較的最近あったことが示唆される。
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