シークウェンス層序研究においては地層から海水準変動の痕跡を検出することが必須作業であるため、深海に発達する海底扇状地はこれまでシークウェンス層序学の研究対象になりにくかった。本研究はこの問題に海岸線自動後退理論(Theory of Shoreline Autoretreat)を基礎とする実験シークウェンス層序学的手法で取り組むものである。平成13年度は本研究の中間年度にあたるが、実験遂行に関わるハード上の問題からもっぱら理論サイドの進展に努めると同時に、本研究の競争相手ともいえる米国ミネソタ大学セントアンソニーフォールズ研究所の研究者グループとの共同研究の端緒を開いた。これによって、平成14年度に予定していた本番三次元実験で真に取り組むべき課題点が明らかとなり、どこに焦点を絞るべきかが洞察できた。「理論面における進展」を具体的に述べると次のようになる。これらはいずれも平成14年度の本研究にて実験的に検証する。 1.海底扇状地の発達時期と陸棚縁辺デルタ堆積系との関係を、世界の主要24河川デルタの資料と過去7千年間の氷河性海水準上昇を考慮したデルタ成長をシミュレーションによって明らかにした。この問題の理解には海岸線自動後退の原理が強く関わっている。海水準上昇期における深海堆積系への陸源粗粒堆積物の供給は、デルタが初期ジオメトリを喪失するオートブレイクを経験する前に陸棚外縁に到達することが必要条件である。 2.海水準上昇期におけるオートブレイク事件と同様に、海水準低下期にもデルタは初期ジオメトリを喪失する瞬間を必然的に迎えることが予想される(オートインシジョン)。一般に、海水準が低下を開始するとすぐに河谷の形成が始まると考えられているが、理論はそれが誤りであることを示唆する。河谷の形成開始はオートインシジョン以降であり、深海粗粒堆積系の発達もこのことに制約される。
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