実験シークウェンス層序学の手法によって、深海底扇状地の発達条件と海岸線自動後退との関係が明らかになった。また、この問題の検討過程でシークウェンス層序学と海岸線自動後退理論の理解に関わる重要な発見があった。以下、これらの新知見を述べる。 1.海岸線自動後退理論は海水準下降期のデルタ堆積系にも適用可能である。海水準下降速度一定、堆積物供給速度一定の条件のもとで、デルタ堆積系は埋積的にふるまう初期段階を必ず経験しそしてそののちに侵食的レジメを必然的に迎える(autoincision)。定常的海水準上昇のもとでのオートブレイクも、定常的海水準低下のもとでのオートインシジョンも、同一の方程式で表現できる。オートブレイクとオートインシジョンはいずれもデルタの初期ジオメトリが失われる変換点であり、そしてその後は自己組織的海岸段丘と自己組織的河岸段丘がそれぞれ形成されていく。定常的外力のもとであっても、それに応答するデルタの自己組織的プロセスは非定常的に映りうる。 2.海底扇状地はその陸側での海岸線自動後退の現象に敏感に呼応する。海水準上昇期の早期にオートブレイクを経験するデルタと連携する深海粗粒堆積系では、海水準下降期もしくは低海水準期のみにおいて発達可能である。一方、オートインシジョン経験後のデルタには規模の大きなチャネルが存在するため、これを通じて粗粒堆積粒子は側方に拡散することなく陸棚をバイパスし海側遠方まで運搬されやすい。 3.自己組織的な地形発達過程と堆積過程の理解に根差した新しい地層観の構築が必要であり、それはオート層序学的地層観とでも呼ぶべきものである。海岸線自動後退理論はオート層序学の基礎となる。オート層序学はシークウェンス層序学のノルムであり、その開拓なくしてシークウェンス層序学の発展はありえない。地層解釈の基本は自己組織的プロセスに着目することである。
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