研究概要 |
花崗岩貫入岩体の固結にともない,マグマから分離したマグマ水は高濃度の塩化物水溶液で,CO2などのガス成分や重金属濃度も高濃度であり,この溶液が鉱床の生成に密接に関与していると考えられている。今年度はマグマ水の化学組成に関し以下の2点について研究を行った。 熱水中のCO2濃度がNaCl溶解度に与える影響について,昨年度に手法を確立した人工流体包有物法を用いて実験的に明らかにした。29-40wt%のNaClを含む流体包有物を石英中に合成した。CO2源としてシュウ酸銀を用い,あらかじめ5モル%CO2となるように目的量のシュウ酸銀を石英やNaCl水溶液とともに金チューブに封入した。合成した流体包有物は室温でNaClの結晶を含んでいる。この結晶の溶解温度を顕微鏡加熱装置で測定し,160-320℃の温度領域で溶解度曲線を得た。5モル%CO2溶液中でのNaCl溶解度は,CO2を含まない場合より約1wt%低いことが明らかになった。スカルン鉱床などでは,重金属を含むNaClマグマ水起源の熱水が炭酸塩岩と反応し,溶液中のCO2濃度の増加により塩濃度が下がり,その結果重金属-塩化物錯体が不安定となり鉱石鉱物が沈殿する可能性が示唆された。 鉱床生成に関与した熱水の化学組成に関する情報を得るために,放射光を利用して流体包有物に含まれる溶液の組成を求める実験を行った。斑岩型鉱床に伴われるNaCl娘鉱物を含む流体包有物を試料として,高エネルギー加速器研究機構BL-4Aにおいてマイクロビームを用いて蛍光X線分析を行った。Fe,Mn,Zn,As,Brなどが検出され,これらの元素の流体包有物内での濃度分布をマッピングすることに成功した。石英母結晶による吸収が強く,Na,Clなどの軽元素は検出することができなかった。
|