地球環境史と鉱床生成史の統合体系化を図る観点から、地質イベント解析を対象とする内外の各種共同調査研究プロジェクトに硫黄同位体地球化学研究協力者として積極的に参画し、分析情報の蓄積とその解析につとめ初期の目的を達成した。本研究の理論的基礎は著者が独自に展開してきた「金属鉱床生物有機源環境規制モデル:黒鉱-石油同源説(PUMOS理論)」及び「海洋無酸素事変(OAE)の硫黄同位体地球化学的判別理論」である。 [生物大量絶滅期の環境復元]:地球史における主要な地質境界期(PC/C、F/F、G/L、P/T、C/T、K/T)から得られた硫黄同位体情報を解析し、これらの境界期の前後にはいずれも微量重金属元素の濃集を伴う種々の時間スケールのOAEが生起していたことを明らかにした。とくに古生代末大量絶滅期(P/T、G/L)には海水硫黄同位体比の顕著な負シフトが見られることから、これには特異なカタストロフィズム(天体衝突によるマントル硫黄の放出とそれに伴う水圏酸性化及び大気酸素レベルの低下)が起因している可能性があることを指摘した。 [鉱床生成期の環境復元]:中・古生代及び新生代の主要な時間-層準規制型同生重金属鉱床(層状含銅硫化鉄キースラガー鉱床、層状マンガン鉱床、黒鉱型塊状鉱床)を含む堆積シーケンスから得られた硫黄同位体情報を解析し、これらの鉱床生成期には例外なく同調的又は前後して顕著なOAEが出現していたことを実証した。これは鉱床生成現象が海洋物質酸化還元サイクルの一環であることを強く証拠づける新たな知見である。 [硫黄同位体層序学の新展開]:現世生物源炭酸塩の構造置換態硫酸(SSS)が海水溶存硫酸と等価な硫黄同位体比をもつことを実証し「炭酸塩SSS硫黄同位体層序学」の基礎を確立するとともに、同手法を古生代の石灰岩類に適用し海洋同位体進化高次変動曲線の復元におけるその有効性を検証した。
|