研究概要 |
本年度は昨年までの実験的研究の成果を受け,天然の岩石の解析を中心に研究を行なった.実験に用いた伊豆大島火山の岩石のうち,1986年噴火のスコリア中の斑晶に合まれるガラス包有物の化学組成,特に揮発性成分に着目して分析し,実験結果との比較検討を行った.昨年までの研究から,伊豆大島をはじめ島弧のソレアイト玄武岩中に含まれるAn90程度の化学組成をiもつ斜長石を晶出するにはマグマ中に水を3%以上含む必要があることが分かっているが,An90の組成を持つ斜長石斑晶に含まれるガラス包有物が有する水の量は1.5%以下であった.この矛盾の原因として,一旦斑晶中に取り込まれたメルト包有物内の水が解離し,水素成分のみが拡散によって散逸した可能性が考えられる.また,3%以上の水を含むマグマが地下浅部まで上昇する際に,発泡が生じず過冷却状態になって,浅部で脱ガスと同時に斜長石斑晶の結晶化が進行した可能性もある.このことを確認するため,別の揮発性成分である硫黄成分の測定もおこなった.その結果,水の減少に対応して硫黄も減少していることから,後者の可能性が高いことが判明した. 同様の研究を三宅島火山,富士火山の宝永噴火,貞観噴火の際のスコリア試料についてもおこない,水と硫黄成分の関係から斜長石斑晶が低圧での脱ガスにともない結晶化している可能性が高いことが判明した.このように,玄武岩マグマからCaに富む斜長石を晶出するには,比較的多くの水が必要であること,また,斜長石の晶出は玄武岩マグマから揮発性成分が脱ガスする際に生じる可能性が高いことが分った.今後,このようなプロセスが実際に火山で起こりうるかどうか,マグマ上昇の物理モデルの検討が必要である.
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