宇宙の化学進化をになう固体物質の形成を速度論的係数の決定を目的とし、地上における実験においては取り扱いの困難な核形成は取り扱わず、結晶成長に目標を絞った。また、実験的な困難性から、単純系に限った実験をおこなうこととした。蒸発源として酸化鉄(Fe2O3)を用い、珪酸塩鉱物であるフォルステライトとMo金属を凝縮基板とした。蒸発温度1350℃、蒸発時間1-120時間の範囲で実験をおこない、いずれの条件においても凝縮物が得られた。電子顕微鏡を用いた観察の結果、凝縮物は金属結晶であることが判明した。凝縮物の形状、サイズは時間とともに系統的に変化し、フォルステライト上とMo上ではそれらは異なり、フォルステライト上のほうが自形性が高くサイズも大きい。これは真空中の輻射場におかれた透明に近いフォルステライトと不透明度の高い金属の実温度の違いと解釈され、ガスの過冷却度の高いフォルステライト上では粒子成長速度が大きいとみなされる。結晶成長と新たな核形成とは競合過程にあり、ガスフラックスとが大であるほど核形成が進行する。さらに、タングステンの共存する系ではガス組成が金属鉄と合金の2相領域にある場合は、合金はウイスカー状となり、金属とは異なる形状を示す。 これらの結果から、宇宙環境における珪酸塩鉱物と金属の成長について知見が得られた。凝縮過程においは系は熱平衡にあり、凝縮成分は過飽和状態で凝縮するが、凝縮後直ちに実効温度は低下するため、大きな成長速度をえることができる。一方金属成分は、実効温度が周囲のガスとほぼ等しいため、成長速度はごく小さくなる。そのため、金属粒子はごく細粒となる。また従来は、金属はその大きな表面張力のため単独で核形成すると考えられてきたが、実効温度の低い珪酸塩鉱物上に核形成・成長するほうがエネルギー的には有利であり、複合粒子が形成されると考えられる。
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