本年度は大きくふたつの角度から研究をおこなった。まず、難揮発性包有物の成因と熱履歴を明らかにするため、特に包有物のリムに注目し、包有物の内部(コア)およびリムに対し、二次イオン質量分析計によるマグネシウム同位体分析および希土類元素分析をおこなった。分析したすべての包有物のコアのマグネシウム同位体組成は質量分別を示し、マグネシウム25/24比がノーマルな値より数パーミル高かった。このことは、難揮発性包有物が(半)熔融状態で蒸発プロセスを経たことを示唆する。リムのスピネル層、メリライト(の変質鉱物)層、ダイオプサイド層のうち、ダイオプサイドのマグネシウム同位体組成がノーマルであるのに対し、スピネルのマグネシウム同位体組成はコアのスピネルと同様、数パーミル重くなっていた。またリムのダイオプサイドに希土類元素の濃集はみられなかった。このことから、(1)リムのスピネルとダイオプサイドは異なる起源を持つ、(2)リムのダイオプサイドは激しい蒸発を経験していない、すなわち急激な加熱・蒸発によってリムが生成されたわけではない、ということが明らかになった。次に、アエンデ隕石の細粒包有物中に超難揮発性成分(スカンジウム、ジルコニウム、イットリウムなど)に濃集した部分が発見されたが、その中の個々の鉱物に対する希土類元素の詳細な分析をおこなった。その結果、難揮発性の度合いの高い重希土類が軽希土類に比べて非常に濃縮した存在度パターンになっていることがわかった。細粒包有物中にこのような超難揮発性の成分が見つかったのは初めてである。本研究は、超高温におけるガスと固体粒子の分離がおこったこと、その固体粒子が捕獲されるような環境で細粒包有物が生成されたことを明瞭に示し、難揮発性包有物の生成環境を推定する上で重要な情報を提供した。
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