約27億年前の黒色頁岩コア試料中に存在するステラン・ホパンなどのバイオマーカーを同定することができた。これらのバイオマーカーは多種有機化合物を含む複雑なマトリックス中に超微量存在し、本研究補助金で導入したイオントラップ型ガスクロマトグラフ多段階質量分析計(GC-MS/MS)がなければ分析不可能であった。ステランが検出されることは当時すでにその生合成過程で遊離酸素を必要とするバクテリアが普遍的に存在していた可能性を示唆する。しかし、コア試料約80mにおいて検出されたステランの分子分布はほとんど同じであった。 一方で、全有機炭素同位体比は-34〜-44‰は幅広い変動を示し、同位体的に重いとき(-34‰)には有機炭素量は約0.1%と小さいのに対して、有機炭素量が約8%と大きいときにはその炭素同位体比は-40‰であった。全窒素同位体比は0〜+10‰の値をとり、当時の海洋が還元的であった証拠とされる負の値は示さず、現在の海洋堆積物の窒素同位体比とほぼ同じ範囲であった。また、有機炭素量が約8%と最も大きいときに全窒素同位体比は最も軽く0‰であった。この値は当時の海洋で窒素固定をするバクテリアが一時生産を担っていた可能性を示唆する。イオウ同位体比も幅広く分布し、+12〜-8‰の範囲をとった。約20‰の分布幅は同時の海洋が硫酸塩に富んでおり、硫酸還元バクテリアの活動が活発であったことを示す。また有機炭素量とモリブデン量の正の相関を示し、酸化大気環境下での無機元素の溶脱・集積も示唆した。 本結果を国際学会で発表し、国際学術誌に投稿した。本結果・考察に好意的な意見も存在するが、現在までの学説と一致しないために現在のところ反対意見が多い。始生代の地球表層環境を明らかにするために、本研究のバイオマーカー・同位体比は強力な研究手段である。
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