研究概要 |
ヒ素汚染水の形成過程を明らかにするために,ヒ素の堆積物中での固定メカニズムと地下水中への溶出を促す要因を検討した。 西表島の潮間帯での約4mの掘削試料では,ヒ素は深度2.2mまで増加するが,これ以深では10〜12ppmではほほ一定である。この変化は鉄とよく対応している。ここでは、ヒ素は酸化鉄に吸着されて堆積物中に固定されるが、一部は微生物活動により有機態ヒ素となる。さりに還元状態が進めば、硫化鉄鉱物が生成する。この時ヒ素は硫化物に再固定されて堆積物に残存する。 大阪層群堆積物中の海成粘土層には7〜20ppmのヒ素が含有される。大阪湾に流入する大和川河口域では,海水-塩水境界より海側でヒ素は植物プランクトンにより濃集され,遺骸として堆積することで堆積物中に蓄積する。 大阪層群最上部の海成粘土層Ma13とその上下の淡水性堆積物層のコアでは,大部分のヒ素は硫化物(黄鉄鉱)としてあった。また,淡水性堆積物との境界部に近い海成粘土層の上部と下部で中央部より高濃度のヒ素が検出される。硫黄は中央部ではヒ素と似た挙動をするが,上・下部では減少が著しい。 和泉市の停滞している井戸において井戸水の溶存鉄とヒ素濃度には正の相関があった。最高ヒ素濃度を示す水深は冬期に深くなる。また,イオウ同位体比から,春〜秋にかけては堆積物中の黄鉄鉱が酸化分化しているが,冬には酸化分解が起こっておらず,大気あるいは肥料など堆積物以外の硫酸の供給源があることが示唆された。 以上の結果から,ヒ素を初生的に濃集するために植物プランクトンが重要な働きをしていること,堆積物中ではヒ素は硫化鉱物に固定されるが,閉鎖的環境でこの変化が起こればヒ素の地下水中への溶出は起きないこと,地下水中の溶存ヒ素の存在は酸水酸化鉄の安定性が規制していることが明らかとなった。また,ヒ素の存在状態を決定する要因として堆積物中の微生物活動は重要である。
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