研究概要 |
今年度は、ESRによる溶液中の励起状態に関して以下のような成果が得られた。 1.トルエン溶液中でサブフタロシアニン励起三重項の時間分解ESRスペクトルを、20-360Kの温度範囲で観測した。2つのサイトをジャンプするモデルで、スペクトルのシミュレーションを行い、ヤーンテラー変形した状態間の平均化、分子の面内回転、面外回転が温度の上昇とともに起こることがわかった。速度定数の温度変化から、それぞれの過程の活性化エネルギーが求められた。 2.金属ポルフィリン励起三重項の常温トルエン中の時間分解ESR信号を、3つのバンド、X(9.3GHz),Q(35GHz),W(95GHz)、で観測した。その結果、線幅は、どのバンドでもほぼ半値幅40ガウスで一定であり、スピンの横緩和速度はポルフィリンによってもバンドによっても変化しないことがわかった。これに対して、縦緩和速度は、ポルフィリンの種類によってもESRの周波数によっても大きく変化した。これは、縦緩和の機構が、通常考えられているスピン双極子緩和機構ではないことを示している。 3.亜鉛ポルフィリンーラジカル軸配位系の時間分解高周波ESRスペクトルの解析から、励起四重項、励起二重項のg値が求められた。その結果、これまでの励起多重項と異なりこれらの状態は、交換相互作用が大きい場合の励起三重項とラジカルの単純なスピン双極子相互作用では理解できないことがわかった。
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