研究概要 |
今年度は、溶液中の励起状態に関して以下のような成果が得られた。 1.スピンの緩和と励起状態ダイナミクスを含む励起状態のESR信号の時間変化を解析するために、励起状態ダイナミクスのみを含む過渡吸収信号の時間変化を解析した。実験系は、ラジカルと金属ポルファリン,ラジカルと金属フタロシアニンの系を選んだ。その結果、励起二重項と励起四重項が関与していると思われる励起状態の時間変化は、ほぼ単一の指数関数で解析できた。この結果から、励起状態間の行き来が寿命と同程度かかなり早いことが分かった。 2.観測された寿命は、ポリフィリン系でフタロシアニン系より10倍程度短く、ラジカルの置換位置によりさらに数十倍の違いが現れることが分かり、これらは、励起三重項とラジカルの交換相互作用の大きさに依存することが分かった。 3.3つの金属(Zn,Mg,H_2)ポルフィリンの励起三重項状態におけるスピン格子緩和時間を、ESRの3つのバンド、X(9.5)、Q(35)、W(95GHz)、を用いて、トルエン溶液中の常温で測定した。その結果、亜鉛ポルフィリンとフリーポルフィリンでは、Xバンドでは、緩和時間に大きな差がないが、Wバンドでは、40倍の違いがあることが分かった。これらは、第二励起三重項状態の位置で決まることが示唆された。 4.亜鉛ポルフィリン・ラジカルの系の励起二重項と励起四重項の時間分解ESR信号の減衰から、これらの励起状態を含むスピンダイナミクスと励起状態ダイナミクスが解析された。
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