研究代表者らは、平成12年度に科学研究費基盤研究(B)(2)の交付を受けて、「溶液内部分秩序の基礎計測」に関する研究を開始した。本年度は3年間の研究計画の第1年目相当し、既存の装置を改良して本研究の目的に即した分光計測装置を構築することが主たる目標であった。、この方針に沿って、本補助金によって高出力cwグリーン固体レーザー、電子冷却CCD検出器、デジタル遅延パルス発生装置各1個を購入し、繰り返し50Hzのフェムト秒時間分解可視分光計を作成した。時間応答関数から評価した本分光測定装置の時間分解能は約150フェムト秒である。本補助金によって購入した備品の使用によって、レーザーの繰り返し周波数に同期したデータ取り込みが可能となり、測定のデータの質が約10倍向上した。 本研究の開始にあたっては、(i)可溶化構造とエネルギー移動、(ii)常温水クラスター中の光化学、(iii)可溶化分子の拡散、の3点に特に注目することを提案した。本年度は、分光測定装置の改良とともに、(iii)の可溶化分子の拡散を解明するための分光計測と解析を主として行った。trans-スチルベンおよびビフェニルの四塩化炭素溶液に光を照射すると2から3ピコ秒以内に溶質であるtrans-スチルベンやビフェニルと溶媒である四塩化炭素が化学反応を起こすことに注目し、これらの反応の様子をフェムト秒の時間分解測定を利用して実験的に明らかにした。さらに、その結果が、本来は数十ピコ秒よりも長い時間領域に対して成立する拡散律速反応のSmoluchowski理論やCollins-Kimball理論でよく説明されることを見出した。これらの結果を論じた論文は、trans-スチルベンについての速報をすでに出版し(裏面に記載)、ビフェニルについての論文(2報)を投稿中である。また、本年度は、国際会議における招待講演を5件行った。
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