研究概要 |
研究代表者らは,平成12年度に科学研究費基盤研究(B)(2)の交付を受けて,「溶液内部分秩序の基礎計測」に関する研究を開始した.3年間の研究計画の第2年目に相当する本年度は,溶質と最近接溶媒分子との相互作用や溶液内に生成する会合体内部での相互作用を,化学反応をプローブとして観測した. 前年度に引き続き,四塩化炭素溶液中での芳香族分子と溶媒である四塩化炭素の光誘起二分子反応について研究した.この反応は3ピコ秒程度で終了する高速の二分子反応であるため,観測される反応速度が溶質と溶媒の相対運動を鋭敏に反映する.従来よりも精度の高い反応の追跡を行うために,光カー効果を利用したピコ秒時間分解けい光分光計の製作を開始した. 最低励起1重項(S_1)状態のtrans-スチルベンのtrans-cis異性化反応の速度と溶媒との相互作用の関係を議論するために,異性化速度とラマンバンド形の温度依存性を3種類の溶液中(ヘキサン,オクタン,デカン)で測定した.溶媒との相互作用によるS_1 trans-スチルベンの状態変化の大きさと持続時間,および頻度が反応速度とラマンバンド形の双方を決定するというモデル(dynamic polarization model)で実験結果を矛盾なく再現できることを示した. 有機溶媒中において2-アミノピリジンと酢酸との会合体の内部で光誘起2重プロトン移動反応が起こり,2-アミノピリジンの互変異性体が生成する反応の機構を研究した.測定されたピコ秒時間分解けい光スペクトルと互変異性体のモデル化合物のスペクトルとの比較などから,この2重プロトン移動反応が段階的に進行することを明らかにした.2-アミノピリジンと触媒の役割を果たす酢酸分子が形成する会合体が数ピコ秒の間維持されることが反応を進行させる上で本質的に重要な役割を果たすことを示すことができた.
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