我々の高感度サブミリ波分光システムは600GHzまでの周波数範囲で分子スペクトルの測定が可能である。研究計画にあるように、今年度は測定可能周波数範囲を700GHzまで拡張した。これまでのサブミリ波光源はミリ波帯クライストロンと周波数逓倍器の組み合わせを用いていたが、クライストロンの出力低下と逓倍効率の低下で、500GHz帯では高感度分光ができなくなっていた。今年度は主な設備として全500GHzをカバーする逓倍器を導入した。また、全600GHz帯をカバーする逓倍器およびこれらの逓倍器を駆動する光源としてガン発振器を別途予算で導入した。ガン発振器を安定な周波数シンセサイザーに位相同期し、この状態で周波数掃引し、同時に信号出力を計算機に取り込むソフトの開発を行い、500-700GHz帯での高感度分光システムに組み上げた。福井大学での高感度サブミリ波分光システムを試験する意味で、まず、これまで知られている分子イオン、H_2Cl^+の同位体種(^<37>Cl、D)の分光をおこない、それぞれの分子種の分子定数を精密に決定した。得られた分子定数よりH_2Cl^+の分子力場を初めて決定した。 研究代表者は星間重水素化合物の重水素濃縮度を暗黒星雲コアの進化のトレーサーとして利用できることを提案している。その応用として、熱源をもたない暗黒星雲として代表的なL134Nの2つのNH_3コアに適用した。NH_3の南のコアのみでNH_2DのみならずNHD_2のスペクトルも検出されている。これら両コアについてDCO^+の重水素濃縮度を用いれば、南のコアが北のよりもはるかに進化が進んでいることを示すことができ、南のコアでの高濃度のNH_2D、NHD_2の存在を進化過程の差として説明できることを明らかにした。この成果は2001年3月日本天文学会春季年会で発表する。
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