昨年度は本研究費及び別途導入した予算により、500-700GHzのサプミリ波領域をカバーする逓倍器、およびこれらの逓倍器を駆動する光源としてのガン発振器を導入し、ガン発振器を安定な周波数シンセサイザーに位相同期し、この状態で周波数掃引する、500-700GHz帯での高感度サブミリ波分光システムに組み上げた。本年度は、新たに、720-780GHzをカバーする周波数逓倍器を本研究費で導入し、これまでに導入してある780-830GHz帯の周波数逓倍器とあわせて、700-830GHzの周波数光源の整備を終了した。この結果、新しい高感度サブミリ波分光システムは500-830GHz周波数帯で分光可能となった。サブミリ波分光実験としては、短寿命フリーラジカルPH_2の重水素化物PHDのサブミリ波分光をおこなった。PHDはりん、水素、重水素とも核スピンを有するため非常に複雑スペクトルを示す。現在、水素までの微細、超微細構造を帰属、解析した。予備的な解析結果によると、得られたPHDの水素核の磁気双極子相互作用項テンソルの対角項と、既報のPH_2の水素の対角項を組み合わせ、PH_2のテンソルの非対角項を導けることを見出した。この結果、PH_2の磁気双極子相互作用項テンソルの主軸と主値を求めることが可能になり、得られた主軸は、PH結合の方向と3度程度一致することが明らかになった。この結果は、超微細相互作用とその核が関与する結合との関係をはっきり示し例となった。水素核の主値、主軸を決定できた例は非常に少ない。 また、昨年度に続いて、熱源をもたない暗黒星雲として代表的なL134Nの2つのNH_3コアについて、化学進化に伴う、重水素の化学濃縮度を用いれば、南のコアが北のよりもはるかに進化が進んでいることを示すことができ、特にコアの進化に伴う収縮の現われとしての、C/0の気相から固相へのDepletionを考えると、南のコアで検出された高濃度のNH_2D、NHD_2の存在を容易に説明できることを初めて明らかにした。 この成果は2002年3月日本天文学会春季年会で発表する。
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