これまで整備した820GHzまでのサブミリ波分光システムについて、本年度は、自然存在比が非常に低い4種のOCS同位体種のスペクトル線を用い、分光器の感度試験を行った。400-700GHz帯の感度を測定した結果、検出可能最小吸収係数で表してほぼ5×10^<-9>cm^<-1>であった。 重水素化短寿命分子のサブミリ波分光としては、昨年度、主に400GHz以下の周波数帯でスペクトルの測定、帰属を終えたPHDラジカルについて、400-800GHzのサブミリ波帯で新たに18本の回転スペクトルを測定し、PHDの分子定数をより精密、詳細に決定した。昨年度既に予備的な結果として報告したように、PH_2水素核の磁気双極子相互作用テンソルの主軸と主値を初めて決定し、しかもその主軸がPH結合とほぼ平行であることを明らかにした。結果を論文として発表した。新たな星間重水素置換分子として、HD_2O^+のサブミリ波スペクトルの検討を行い、予備的な分光を行った。この分子の分光は、以前から進めている、星間重水素濃縮において重要な位置を占めるH_2DO^+の分光と相補う関係にあり、星間空間での水分子の重水素化過程の解明を目指すものである。 また、昨年度、暗黒星雲L134Nの2つのNH_3コアについて、重水素の化学濃縮度を用いれば、南北コアの進化程度を見積ることができること、また、これに伴うC/Oの気相から固相へのDepletionが南のコアでの高濃度のNH_2D、NHD_2の存在を容易に説明できることを初めて明らかにした。この研究の発展として、重水素化学濃縮度の定量に用いる分子イオンの再検討を行った。[DCO^+]/[HCO^+]および[DN_2+]/[HN_2+]を左右する重水素濃縮過程の詳細の検討を行うと共に、これとDepletionの関係を検討した。
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