過渡回折格子法に基づいた新しい手法を開発し、光化学反応のエンタルピーや分子体積の時間変化を測定することに成功した。数多くの分光法のうちで、現在のところ体積変化を直接時間分解できるのは唯一この手法のみである。本手法を、生体蛋白分子のダイナミクス研究に用いた。例えば、ミオグロビンを光励起することにより、ヘムに結合しているリガンドを解離することができる。ここでは、この新しく開発した時間分解過渡回折格子(TG)法を適用し、ミオグロビンの蛋白質ダイナミクスを調べた。TG信号の時間変化には、過渡吸収や時間分解ラマン散乱では観測されたことのないダイナミクスが観測され、初めてヘムから離れた領域での新しい全体運動を見いだした。この時間分解信号より、光で切れたリガンドが蛋白質から抜け出る速度、リガンドが切れた瞬間やリガンドが蛋白質から逃げ出すことによる時間分解体積変化が決定され、更にリガンドがgeminate recombinationできるサイト以外に、もう一つヘムボケットがあることも明らかとした。また、Photoactive Yellow protein(PYP)と呼ばれる、光受容蛋白のダイナミクスについても詳細な研究を行った。その光サイクルにおけるエンタルピー変化-体積変化を測定することに成功し、やはり蛋白全体にわたると考えられる構造変化を時間分解で検出した。また、こうした体積変化が温度に依存することを見出した。従来の体積変化測定の標準的手法では、体積変化などは温度変化しないと仮定しなければ解析できず、その妥当性が問題になっていたが、ここで初めて体積変化にかなり大きい温度依存性があることが示され、従来の物理化学的測定法に警告を促した。 こうした体積変化から見たダイナミクスを検討することで、ロドプシンの光反応に新たな中間体が発見された。この新たな蛋白が、蛋白-蛋白相互作用に重要な働きをしていると考えられる。
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