(1)遷移金属原子-反応分子の相互作用ポテンシャルを得るために、その手始めとして遷移金属原子-希ガス原子のファン・デア・ワールス錯体を生成し、その電子遷移を観測した。Ni-Ar、Kr並びにW-Arについて観測を行い、それぞれの電子スペクトルに現れる振動構造を解析することによって、電子励起状態のポテンシャルパラメータを決定した。また、電子励起後の発光スペクトルを観測し、励起状態のダイナミクスについての知見を得た。いずれの錯体も、発光スペクトルは原子の遷移のみからなっており、励起状態は非常に速く前期解離していることが明らかになった。また、前期解離生成物は非常に選択的で、多くのポテンシャル曲線が関与しうるエネルギー領域でポテンシャル局面の間の相互作用が選択的であることが明らかになった。 (2)遷移金属原子の反応については、これまで放電フロー法で主に反応速度論的な情報を得てきたが、一歩進んで動力学的な情報を得るために、計画において提案した交差分子線装置を建設した。遷移金属原子ビームはレーザー蒸発法により生成し、スキマーで交差領域へ導かれる。分子ビームはパルスノズルを用い、やはりスキマーを経た後遷移金属ビームと交差する。本年度は、遷移金属原子ビームをレーザー誘起ケイ光法によって観測し、反応を観測するのに十分な強度を得るよう条件の調整を行った。また、交差領域での化学発光の観測を試みた。
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