研究概要 |
本研究の目的は、「遷移金属原子や遷移金属原子-配位子錯体の電子状態と反応性・生成物の関係を分子ダイナミクスとして明らかにする。」ことであった。具体的には、遷移金属原子と簡単な分子との反応を単一衝突条件で行わせ、反応のダイナミクスを分子の電子状態から明らかにし、配位子を付けた錯体についても同様の測定を行い、配位子のついた場合の反応性の変化を解明することを目指していた。この2年間で以下のような成果が得られた。 (1)化学反応を単一衝突条件で観測するための交差分子線装置を製作した。 (2)これを用いて予備的な実験を行いその能力を確認し、基礎的なデータを収集した。特に、遷移金属原子の生成法と得られる原子線の性格、金属原子励起状態の選択的生成法の開発などの測定を行った。 (3)交差分子線装置による単一衝突条件下での化学反応の観測を行い、動力学的な情報を得た。具体的な反応系は Ti(a^3F_J)+O_2(X^3Σ^-_g)→TiO(A^3Φ)+O(^3P_J) (R-1) Al(^2P_<1/2,3/2>)+O_2(X^3Σ^-_g)→AlO(X^2Σ^+)+O(^3P_J) (R-2) である。R-1反応は励起状態生成物からの化学発光を観測することによってTiOの振動回転状態分布を決定した。また、R-2反応では生成物AlOをレーザー誘起ケイ光法によって振動回転状態選別して観測し、反応によるエネルギー分配を決定した。R-1反応では、Ti原子のスピン-軌道状態は選別されなかったが、R-2反応では二つのスピン-軌道状態を選別し、その反応性とそれぞれから生成するAlOの振動回転状態分布を決定し、その比較から詳細な反応機構を明らかにすることができた。
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