近年の実験技術の進歩により、二次元分光の実験が盛んに行われるようになったが、それを解析する理論はまだまだ未整備である。実験と理論を結びつける基礎理論を構築する事が本研究の主な目的である。本年度は、相関関数から位相整合条件下での信号を導出するアルゴリズムの開発を行った。理論で通常計算される量は、双極子か分極率の相関関数なのに対し、実際に実験で測られる量は、レーザーの照射角度で特定の信号を検出する位相整合条件が加味されたものである。ポンプ・プローブやフォトン・エコー等さまざまな信号が測られているが、通常の理論はレーザーのシークエンスのみを考慮しており、位相整合条件による差異や、パルスの有限性による効果を考慮していない。そこで、それらを簡単に取り入れるアルゴリズムを開発した。これにより、これまでの理論で求められた相関関数にこのアルゴリズムを通すだけで、5次や7次のラマン、又は3次のIRによる様々な位相整合条件下での信号を、一度に計算出来るようになった。特に重要なのは、パルスが短くなると実際の実験では位相整合によるシグナルの分離が悪くなるのだが、これらの効果もこのアルゴリズムは再現しており、実験手法を思考実験するでも非常に有用にものと考えられる。結果は既に論文にまとめており、現在CPLに投稿中である。また、本年度はこれ以外に回転粒子系の2次元分光の基礎方程式も導出する事に成功している。現在、この解析的式をもとに数値計算を行い、結果を解析中であるが、振動回転相互作用等も2次元分光で解析する事を可能とする重要な結果である。
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