研究概要 |
本年度は主に以下の2点について検討を行った. 1.7-(ジアリールメチレン)-2,3-ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(1)の光反応 基質(1)の直接光照射反応で生成する5員環状TMM型ビラジカル(2)の立体化学について知見を得るべく,部分骨格と比較しながら,吸収・発光・ESRスペクトルの温度効果,溶媒粘性効果などについて検討を行った.その結果,従来の定説とは異なり,室温の溶液中においては直交型(2b)が最安定構造である可能性が極めて高いことが明らかになった.また,平面型(2_p)は低温(77K)マトリックス中においてのみ,準安定な中間体として観測されることも強く示唆された.今後は,更なる検討をすべくDFT計算による理論的評価を行う一方,TMM誘導体のジアニオンを単離し,その立体化学についても実験を展開する. 2.1,2-ビス(α-スチリル)ベンゼン(3)類,3,4-ビス(α-スチリル)フラン(4)誘導体の光増感電子移動反応 基質(3,4)の低温マトリックスのガンマ線照射および時間分解レーザーフラッシュフォトリシスにリンクした可視吸収スペクトルを観測した.その結果,基質(3)からは,テトラメチレンエタン(TME)型カチオンラジカル(5^<・+>)が観測された.これは光増感電子移動反応におおいては,初期の反応中間体であり,その後逆電子移動によるビラジカル(5)への変換される.同様なTME型カチオンラジカル(6^<・+>)中間体は基質(4)からも生成が期待されるが,現在の所観測には至っておらず,今後の検討課題としたい. これらが達成できれば,我々がここ数年主張してきたカチオンラジカルとビラジカルを経由する新規反応機構が確立できる.今後も検討を続ける一方,速度論とエネルギー論との対応も図るべく研究を展開したい.
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