研究概要 |
求核性有機金属化合物は,有機溶媒中で複数の金属カチオンとカルバニオンを含む平衡状態にある会合種を形成しており,このようなクラスター性有機金属化合物の反応機構は複雑を極める.これら有機金属会合種の反応挙動を理解することによって,これまで単純なカルバニオンの化学とされてきた有機金属反応の概念を刷新し,次代の精密合成反応の開発,さらには新反応の発見のの為の基礎を築くこと目的として研究を行っている.研究期間中に(1)有機金属クラスターに特徴的な反応の理論的検討(2)それに基づく会合体の設計,合成および,その反応性に関する実験研究(3)これまで精密合成において顧みられることの少なかった鉄を鍵元素とした合成反応開発を計画しており,本年度はその(1)及び(2)に関して大きな進捗が得られた.以下概要を示す. アリル亜鉛試薬のビニルマグネシウムへの付加反応は,1970年代にGaudemarらに見い出され,その後Normantらによる精力的な研究により,合成化学的に興味深い反応として認識されるようになった.その一方で,なぜこのような求核試薬(カルバニオン)の求核試薬(カルバニオン)への付加が効率的に起こるのかという,反応機構的な疑問はこの30年来解かれることがなかった.我々は大規模分子軌道計算を用いた反応経路の検討により,この一見奇妙な反応が,有機亜鉛・マグネシウム会合体の形成を鍵として進行することを明らかにした.さらにここで得られた知見を基に,新たなカルボメタル化反応系の開発に臨み,ビニルホウ素化合物を始め,種々のビニル金属化合物に対する有機亜鉛試薬の新たな付加反応を見い出すことに成功した.また,有機亜鉛試薬としてはアリル亜鉛に加えて,亜鉛化ヒドラゾン,亜鉛化エナミンなど,潜在的な合成的汎用性の高い試薬を見い出すに至った.次年度は反応機構の理論的な解析に加えて,有機鉄を触媒とした立体選択的反応への展開を検討する.
|