研究概要 |
本年度の研究ではタングステンカルボニル錯体を用いる環化反応を利用して、簡便なα,β-不飽和ケトンへのシクロペンテン環形成反応の開発を行った。まず、硫化ジメチルとトリフルオロメタンスルホン酸t-ブチルジメチルシリル存在下、α,β-不飽和ケトンに対し3-ブロモプロピンから調製したインジウム試剤を作用させると、プロパルギル基がα,β-不飽和ケトンのβ位に付加したシリルエノールエーテル、6-シロキシ-5-エン-1-イン化合物が得られることを見いだした。さらに、この6-シロキシ-5-エン-1-イン化合物に対し触媒量のW(CO)_5(thf)錯体を作用させると、末端アルキン部位がπ錯体あるいはビニリデン錯体の生成により求電子的に活性化され、これに分子内のシリルエノールエーテル部位が求核付加し、従来ほとんど例のない5-Endo-Dig型で環化したシクロペンテン誘導体が収率よく得られる。 さらにインジウム試剤を用いたα,β-不飽和ケトンヘのプロパルギル化反応の反応条件で、アルキン末端に置換基を持つプロパルギルブロミド誘導体より調製したインジウム試剤を用いると、1,2-プロパジエニル基が、α,β-不飽和ケトンのβ位に付加したシリルエノールエーテルが容易に合成できることを見いだした。この6-シロキシ-1,2,5-トリエンに対し触媒量のW(CO)_6錯体存在下、直接光照射すると、タングステンにより求電子的に活性化された1,2-ジエン部位に分子内のシリルエノールエーテル部位が求核付加し、5-Endo-Trig型環化体であるシクロペンテン誘導体が収率よく得られる。この反応は、上述の5-Endo-Dig型環化反応と相補的に利用することにより二重結合の位置の異なるシクロペンテン誘導体をそれぞれ選択的に合成できる、有用な合成手法である。
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