本研究は、従来炭素骨格形成にほとんど利用されたことのないビニリデン錯体、カルベン錯体等、金属-炭素多重結合を有する錯体に着目し、新しい形式の有用な炭素骨格構築反応を開発することを目的に研究を行った。 1)Fischer型タングステンカルベン錯体を電子不足オレフィン存在下、ヨウ化サマリウムにより一電子還元すると、金属部位を有するラジカルアニオン種が生成し、これが電子不足オレフィンに付加反応を起こすことを見いだした。一方クロム錯体を用いると、ラジカルアニオン中間体にカルボニルの挿入が起こりアシルクロマート錯体が生成し、これが電子不足オレフィンに付加することを見いだした。 2)オルトエチニルフェニルケトン誘導体にタングステンペンタカルボニルTHF錯体を作用させると、ビニリデン錯体を経由して電子環状反応が進行し、新規錯体であるベンゾピラニリデン錯体が得られることを見いだした。さらにこの錯体は電子豊富オレフィンと逆電子要請型のDiels-Alder反応が進行し、脱ヘキサカルボニルタングステンを経て、ナフタレン誘導体を与えることを明らかにした。一方、オルトエチニルフェニルケトン誘導体と電子豊富オレフィン存在下にタングステンペンタカルボニルTHF錯体を作用させると、新規反応活性種である金属含有カルボニルイリド種が生成し、これが電子豊富オレフィンと反応した多環性化合物を与えることを見いだした。この反応を展開し多環性インドール合成法を実現した。 3)分子内に末端アセチレン部位を有するシリルエノールエーテルに対し、タングステンカルボニル錯体を水存在下作用させると、タングステン錯体がアセチレン部位を求電子的に活性化することによりシリルエノールエーテルの分子内求核付加が進行し二環性のケトンが得られることを見出し、各種の有用な合成反応へと展開した。
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