本研究では、含窒素複素環構築に利用可能な力量ある新しいラジカル環化反応の開発を目的とした。すなわち、攻撃するラジカル種と攻撃される不飽和結合がともに極性を有する場合、極性効果による加速化が起こるとする作業仮説をたて、「極性支配型ラジカル環化反応」を創出するために実験並びに計算化学的研究を推進した。その結果以下に示す成果を見出した。 アシルラジカルの分子内イミン結合に対する環化の遷移状態をAb initio MOおよびDFT法により求めることに成功した。その結果、イミン窒素状の非共有電子対とアシルラジカルのカルボニル炭素とのイオン的相互作用を反映した遷移状態が示された。この遷移状態はイミン窒素とアルデヒドとの相互作用に類似した遷移状態であり、本研究の作業仮説である極性支配型ラジカル環化を計算化学的に強く支持するものと言える。 この極性支配型の環化反応を、トリブチルスズを用いたアザエンイン類のスタニルカルボニル化反応に適用したところ、α位にスタニルメチレン基を有するラクタム類一段構築に成功した。本反応では、4員環から8員環までのラクタム環の合成が可能であり、適用範囲の広い反応であることを明らかとした。また、アザエンイン類のシリカルボニル化反応も良好に進行し、α位にシリルメチレン基を有するラクタムが効率良く得られることを見出した。 以上の様に、アシルラジカル種とイミンの組み合わせにより、極性支配型ラジカル環化反応を達成するとともに、この反応が類例を見ない適用範囲の広い反応であることを明らかにすることができた。この「極性支配型ラジカル反応」の概念はラクタム環合成にとどまらず、広く一般性を持つものに発展していくことが期待される。
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