研究概要 |
我々は最近,ヘリセンジオールがバネのように伸び縮みしてゲスト分子を認識するという興味深い事実を発見した。このような二官能性ヘテロヘリセンを合成するには,無置換のヘテロヘリセンを位置選択的にリチオ化し,ついで求電子試薬で処理するという方法が考えられる。そこで,[7]チアヘテロヘリセンに2当量以上のブチルリチウムを反応させたところ,両端のチオフェン環のα位を選択的にジリチオ化することができた。このジリチオ体にクロロジフェニルホスフィンを反応させ,ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘリセンを得ることに成功した。また,ジリチオ体に塩化ジフェニルホスフィン酸を反応させてホスフィンオキシドを合成し,ついで,三塩化ケイ素で還元する方法でもビス(ジフェニルホスフィノ)ヘリセンの合成が可能となった。 このビスホスフィンはヘリカルなキラリティを有するため,もし光学活性化合物が得られれば不斉配位子として興味が持たれる化合物である。そこで,光学活性なビスホスフィンを合成するため,D-ショウノウ-10-スルホン酸アジドを反応させて,ホスフィンイミンのジアステレオマーを合成した。ついで,カラムクロマトグラフィーによりこのジアステレオマーを分離精製し,硫酸で処理して不斉源を除去し,ホスフィンオキシドの両エナンチオマーを合成することができた。ついで,ホスフィンオキシドをトリクロロシランで還元し,光学的に純粋なビス(ジフェニルホスフィノ)ヘリセンの両エナンチオマーを得ることに成功した。これは新規なラセン型ホスフィンである。
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