第二周期元素により構成される多重結合化合物、例えば、オレフィン、アゾ化合物、カルボニル化合物などに比し、高周期典型元素の二重結合化合物は、著しく不安定である。本研究では高周期14族元素-酸素間の二重結合化合物、すなわちケトンの重原子類縁体の合成を目指している。本年度の計画では、そのような二重結合化学種の中からゲルマニウム-酸素間に二重結合をもつカルボニル化合物の重原子類似体、ゲルマノンを選びその合成について検討した。ゲルマノンは二量化などに対し極めて不安定と考えられるので、その安定化の手法として我々が以前開発し、種々の不安定化学種の安定化に実績のあるかさ高い置換基(Bmt基)を用いて速度論的安定化を試みた。BmtBrをt-ブチルリチウムでリチオ化し、ついでこれをテトラメトキンゲルマンと反応させてBmtGe(OMe)_3とした。これをt-ブチルリチウムと反応させてBmt(t-Bu)Ge(OMe)_2とし、これを水素化リチウムアルミニウムで還元しBmt(t-Bu)GeH_2とした。この反応において、t-ブチルリチウムを過剰に用いるとBmt(t-Bu)_2GeHがかなり生成したがt-ブチルリチウムを1.1当量程度におさえることにより収率が向上することが明らかとなった。Bmt(t-Bu)GeH_2をN-ブロモコハク酸イミドで臭素化しBmt(t-Bu)GeBr_2を得た。Bmt(t-Bu)GeBr_2をリチウムナフタレニドで還元し、ゲルマノンの出発原料となるゲルミレンBmt(t-Bu)Geを得た。
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