研究概要 |
本研究では,多座配位子の配位基が一部非配位のまま残っているような錯体(「配位基過剰型錯体」と呼ぶ)を合成し、その非配位基に由来する独自の諸性質を明らかにすることを目的とした。今年度は、配位子として四座配位子のtris(2-pyridylmethyl)amine(tpa)および六座配位子のN,N,N',N'-tetra(2-pyridylmethyl)ethylenediamine(tpen)を用いて研究を展開した。(1)平面型白金(II)およびパラジウム(II)錯体.二種類の錯体、[PtCl(tpa)]^+および[Pt(tpen)]^<2+>ならびにそのPd類似体を合成した。[Pt(tpen)]^<2+>はX線単結晶構造解析に成功し、錯体はいずれも平面構造を維持し、tpa錯体は1ヶの非配位基、tpen錯体は2ヶの非配位基を持つことが明かとなった。^1H NMRにより、溶液内で非配位と配位の2-pyridyk基が交換反応を起こしていることが分かった。温度可変^<13>C NMRスペクトルの線形解析により、各錯体の交換反応速度を見積もった結果、Pt錯体<<Pd錯体、tpa錯体<tpen錯体のような傾向があることが明かとなった。(2)レニウムカルボニル錯体.六配位八面体型のRe(I)錯体、[Re(CO)_3(tpa)]^+を合成し、結晶解析により1ヶの2-pyridylmethyl基が非配位である構造を明らかにした。この錯体の非配位と配位2-pyridylmethyl基の交換は、NMRスペクトルからは認められず、同型の構造のMo(0)錯体、Mo(CO)_3(tpa)、が速やかな交換反応を示すことと対照的な結果を得た。酸化数の違いが要因であると考えられた。この錯体は、他のRe(CO)_3錯体と同様、紫外光照射により500nm付近を極大とする強い発光を示すことがわかった。この発光の寿命等に対する非配位pyridyl基のプロトン付加の影響は見られなかった。(3)V(IV)のtpa錯体.先に当研究室では、オキソレニウム(V)のtpa錯体が、オキソ基の強いtrans影響により、オキソ基のtrans位に来るべきpyridyl基が非配位として残ることを見い出している。同様の効果が見られるかどうかを、オキソバナジウム(IV)錯体を合成することによって明らかにしようとした。その結果、V(IV)O錯体では、すべての配位基が配位した構造のみが得られた。金属イオンのサイズの影響が大きいことが明かとなり、非配位基を持つ錯体の設計について、一つの示唆が得られた。
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