研究概要 |
本研究では、多座配位子の配位基が一部非配位のまま残っているような錯体(「配位基過剰型錯体」と呼ぶ)を合成し、その非配位基に由来する独自の諸性質を明らかにすることを目的とした。昨年度に引き続き、配位子として四座配位子のtris(2-pyridylmethyl)amine(tpa)および六座配位子のN,N,N',N'-tetra(2-pyridylmethyl)ethylenediamine(tpen)を用いて錯体を合成した他、新たにコンパクトな多座配位子として、2,5-dimercapto-1,3,4-thiadiazole(McMTH)を用いた錯体を数種合成した。さらに、PPh_2(CH_2)_nPPh_2型の一連のジフォスフィン二座配位子が単座で配位した錯体も合成した。 (1)tpen錯体. 先に、7配位のオキソRe(IV)tpen錯体およびその一電子酸化体のオキソRe(V)錯体が合成されていたが、その酸化によるRe(VII)錯体として、半分の3座配位部分が非配位で残ったユニークな構造の3座配位tpenを含む[Re(O)_3(η^3-tpen)]^+が合成できた。これを用いて非配位部位に別種の金属イオン中心が配位した錯体を合成し、分子間相互作用を調べた。 (2)PPh_2(CH_2)_nPPh_2型配位子を持つレニウム六核錯体. 正八面体型Re六核骨格は、その大きなサイズにより、通常のキレート配位子がキレート出来ない。これを利用し、単座配位のジフォスフィンを含む一連のレニウム六核錯体を合成した。その際、反応条件を変えることにより、n=2-5で、一連の[Re_6Se_8-Cl_m(PPh_2(CH_2)_nPPh_2)_m]^<(2-m)+>型錯体を合成し、その酸化還元および発光挙動を系統的に研究するとともに、非配位部分への別の金属イオンの配位についても研究した。 (3)McMTH配位子を持つ錯体. 平面型[Pt(2,2':6,2''-terpyridine)(OH)]^+のOH^-をMcMT^-の一つの-S^-で置き換えた単核錯体、および二つの-S^-で置き換えた複核錯体を合成し、その構造や性質を比較した。また、単核錯体については、-S^-部分の酸化によるS-S結合の生成過程を調べ、Pt部分の影響を明らかにした。さらに、六配位八面体型の[Ru(2,2'-bipyridine)(2,2':6,2''-terpyridine)(McMT)]^+も合成し、同様の研究を行った。また、このPtとRu中心とを、McMTで連結した異核複核錯体も合成した。さらに、これらの配位子を含む一連のCu(I)およびAg(I)合成と構造決定にも成功した。これら、Pt(II)、Ru(II)、Cu(I)、Ag(I)錯体はいずれも発光性であったので、その光酸化還元活性についても調べた。
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